大阪高等裁判所 昭和56年(う)1676号 判決 1982年5月31日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人丹治初彦作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官北側勝作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。
一、控訴趣意第一(訴訟手続の法令違反の主張)について
論旨は、要するに、原判示第四の事実に関し、原判決が被告人の自白を裏付ける十分な補強証拠がないのに「運転」の事実を認めたのは、刑事訴訟法三一九条二項に違反し、破棄を免れない、というのである。
そこで、所論にかんがみ記録を精査して検討するに、原判示第四の被告人の無免許運転の事実については、被告人の自白以外にも自白(被告人の「運転」)を裏付けるに足る補強証拠があり、原判決には所論のような瑕疵はない。
すなわち、原判決が原判示第四の関係証拠として挙示する被告人の自白以外の証拠はいずれも被告人の運転行為そのものを現認したことを内容とするものではないが、右自白以外の関係各証拠、ことに藤原茂の検察官に対する供述調書、Aの検察官ならびに司法警察員に対する各供述調書、交通事件原票などを総合すると、本件違反にかかる車両は神戸五五ふ三一九二号の普通乗用車であり、同車は被告人が経営する有馬食品株式会社の所有車であるばかりか、被告人が敢行した原判示第一の無免許運転にかかる車両と同一の車両であること、警察官藤原茂は駐車違反の取締りに従事中、午後二時一〇分頃原判示第五の駐車違反にかかる本件車両を発見したが、その際は車内に誰も乗っておらず、その約一二分後の午後二時二二分頃被告人が一人で本件車両のところにきて運転席ドアの横に立っていたこと、その際被告人は、同警察官が行った本件車両の運転手かどうかの職務質問に対しても、「A」と名乗って自ら本件車両の運転手であることを認め、「馬券を買うのに一人で車を運転してきた。免許証は家に忘れてきた」などと弁解していたこと、Aは被告人の小・中学生時代の同級生であるが、氏名を詐称されただけであって、本件車両の駐車や運転には全く関係がないことなどの事実が認められ、これらは、原判示第四の日時場所において同車両の移動を行った者が被告人以外の者ではないことを示すものであるとともに、原判決が関係証拠として挙示する被告人の自白内容ともよく符合し、その自白の真実性を裏付けるに足る。そうしてみると、右自白以外の前記関係証拠は右自白の補強証拠として十分であるというべく、したがって、その挙示する関係証拠によって原判示第四の事実を認定した原判決は正当であって、所論のような違法のかどはない。論旨は理由がない。
二、控訴趣意第二(量刑不当の主張)について
論旨は、量刑不当を主張するのであるが、所論にかんがみ記録を精査し当審における事実取調の結果をもあわせて検討するに、本件は無免許運転と踏切でのいったん停車違反や駐車違反をし、それらが警察官に発見されるや、取調べに際して他人名義の供述書を作成して提出行使したという道路交通法違反四件、有印私文書偽造・同行使二件の事案であるところ、動機や態様に酌むべきものがないこと、右は同種事犯による確定裁判の前後にまたがって敢行され、一部は右確定裁判による懲役刑の執行猶予期間中に累行されたものであること、被告人には他に同種の交通事犯による前科が多数あり、遵法精神も稀薄であることなど諸般の犯情にかんがみると、被告人の刑事責任は重大であるから、所論の諸事情ことに家庭状況を十分に考慮しても、被告人に対して判示第一ないし第三の罪につき懲役四月、判示第四ないし第六の罪につき懲役六月及び罰金五、〇〇〇円の実刑に処した原判決の量刑はまことにやむをえないものであって、重過ぎるとは考えられない。論旨は理由がない。
よって、刑事訴訟法三九六条により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉川寛吾 裁判官 右川亮平 栗原宏武)